●未来に時を刻む
昭和5年(一九三〇)の完成当初は1階から4階までが陳列室や事務所、5階は畳敷きの大広間で洗面室などがあり、10代の丁稚が住み込んでいたという。デモクラシーの花咲く大正モダンの時代からまもなく、世界恐慌が始まり、やがて戦争へと入っていく時代の10年間、このビルは特に輝きを放った。引っ掻いた模様のスクラッチタイルに大きな焼き物のブロックのテラコッタ。これらは昭和のひと桁、10年間だけにはやった素材で、大きな特徴になっている。
●振り子時計
ビルの屋上には時計台。5・4・3階は出窓。そして2階の丸窓が入って、全体として振り子時計をイメージしている。設計は宗兵蔵(そうひょうぞう)で、非常に重厚な様式を重んじた設計建築が主だったが、昭和に入り民間の商店ということで、重厚という様式からはずいぶんはずれ、当時としてはかなり遊び心のある設計になっている。大正14年(一九二五)のパリ万国博覧会でアールデコ様式が花開き、従来の様式的なものから幾何学的なデザインが主流になってきた時代。その影響が大阪のこのビルにも色濃く表れている。
●京阪電鉄「北浜駅」